骸骨のある紋章/Coat of Arms with a Skull
エングレーヴィング、1503年、紙サイズ217×157mm、Meder 98/I/b/c(v.II/d)、Schoch/Mende/Scherbaum 37/I/b/c(v.II/d)、Strauss 40 I/b/d(v.II/d)、地面と兜の最も低い弧部分との間で、冠羽の右側に向かう小さなスクラッチのできる以前の第一ステート。
タブレットにADのモノグラム、下部の石に年代の彫り込まれたデューラーの初期版画作品。豊満な女性は豪華なティアラを冠り、婚礼の衣装を着けた貴族の娘とされる。美しい彼女にぴったり寄り添うのは骸骨の紋章と羽飾りのついた兜を手にした蛮人。さまざまの解釈があるが、ヴァニタス、ままならぬ人間の空の空なる象徴であろうか。やや上からの角度で描かれた紋章の骸骨はまさにこの図の中央を制し、眼窩・歯・耳もなぜかいきいきと美しい。人間の生の営みを嗤うのか、嘆くのか。
detail
detail
梨の聖母子/Madonna with the Pear
エングレーヴィング、1511年、イメージ・サイズ157×107mm、紙サイズ161×110mm、Meder 33/a(v.c)、Schoch/Mende/Scherbaum 63/a(v.c)、Strauss 54/a(v.c)、Bartsch 41/a(v.c)、Watermark:Meder 171(Anchor in Circle)、ADのモノグラム、上中央に制作年あり。
自然の中の聖母子のテーマは1503年の「草土手に座る聖母」以後、この作品に至るまで間がある。この間にデューラーはイタリアへ旅し、名作「アダムとイヴ」(1504年)完成、木版画の大・小「受難伝」「マリアの生涯」、銅版画「小受難伝」に着手。その後「騎士と死と悪魔」から「メランコリアT」「書斎の聖ヒエロニムス」といった代表的な名作に至る。この間に制作された当作品は、デューラーの銅版画作品が最高潮に達した時期のものといえる。幼な児を抱く穏やかな聖母マリアの美しさはいうまでもないが、衣服のドレープ、力強い背後の樹木、遠景の城壁、その上を行き来する兵士までくっきりと見える素晴らしい刷り。
detail
メランコリア I/Melencolia I
エングレーヴィング、1514年、紙サイズ240×189mm、イメージ・サイズ239×186mm、Meder 75/II/b (v.f)、Schoch/Mende/Scerbaum 71/II/b (v.f)、Strauss 79 II/II/b (v.f)
魔法陣の3段目左端“9”が裏向きから直されたセカンド・ステート、スクラッチのあるヴァリエーション以前の非常に良い刷りで、小さなマージンがあり四囲の線が明確に見える良好な状態。ウォーターマークは“小さい壺”(No.158 )。
デューラーの三大銅版画の一点。デューラー版画の中でも最も解釈不能とされ、また最も美しく象徴的な作品。有翼の美女とその手のコンパス、後方の魔法陣、天秤、砂時計、吊り鐘、多面体、道具類等々は幾何学に関連する象徴であり、デューラーの美術理論に対する洞察と関連付けて考察される。しかし愛らしいクピドや虹と光線の中を飛ぶ蝙蝠、眠る犬等々、他の数々のディテールと併せ、未だ答えの出ぬ意味を推察せずとも、500年の時を超えて見る者を魅了してやまない。
来歴:Furst Karl Paar, Wien, 1772-1819, Lugt 2009・2062/William Bell Scott, London, 1811-1890, Lugt 2607/Aukland Art Museum, University of North Carolina, Chapel Hill, NC, Lugt online 3515
detail
大きな馬/The Large Horse
エングレーヴィング、1505年、イメージ・サイズ167×119mm、Bartsch 97、Meder 94、Strauss 45、刷りはMeder a-b/f、版上右下にモノグラムで署名と中央上に年号あり。
デューラーは馬を描くことに誠に巧みである。「騎士と死と悪魔」「聖エウスタキス」等々。しかしこの作品ほど、画面中央に主役として馬を描いた作品は他にない。同年のサイズの小さい「小さな馬」よりも、馬も装飾兜の斧槍兵もより悠然として優雅である。当作品は繊細な薄い紙に、インクの黒が見事に立ちあがった素晴らしい刷りで、四辺に小マージンも残る稀有な一点である。
detail
犀/The Rhinoceros
木版、1515年、Bartsch 136、Meder 273, Hollstein 273、Strauss 176、1620年の第6刷り、ヴェルジェ紙、214×300mm、版上にモノグラムによるサイン、年号とRHINOCERVSの文字、ウォーターマークあり。プロヴナンスはSir John St. Aubyn (1758-1839)、Lugt 1534。図柄上部の犀の説明文部分は欠落。
この犀はカンボジアの王からポルトガルの王への贈り物で、1515年にリスボンに到着した。なにしろヨーロッパへの初お目見えだったので大変な騒ぎだった。刷り師のフェルディナンド(V.Ferdinand)がリスボンからニュルンベルクに送ったスケッチ(大英博物館蔵)がこの木版画のもととなっている。ポルトガル王はこの珍獣をときの法王レオ十世に送ったが、途中船が沈み、哀れな犀は死んでしまった。しかしどうにか引き上げられ剥製になって法王に届けられたそうである。珍しいモデルといい大胆な構図といい、デューラーの他の木版とは全く異なる稀有な作品。比較調査の結果、第6刷りであるが木版に生じた亀裂の目立たない、鮮明な質の高い刷りである。
キリストの哀悼(「小受難」よりプレート12番)/Lamentation over Christ (Plate 12, from the Engraved Passion)
エングレーヴィング、1507年、紙サイズ113×70mm、Meder 14 a/b、Bartsch 14、Hollstein 14、三方に小マージン、上のみ些少のトリムあり、ウォーターマークは“牛頭”(M.62)。
エングレーヴィングによるキリストの「小受難」は、1507年から1513年の長期にかけて順次、制作・発行された16点からなるシリーズ。十字架から降ろされ、息絶えたキリストを悼み悲しむ人々の図。同テーマは大判、小判の木版による二シリーズがある。銅版による当シリーズは木版に比べてサイズこそ小さいが、その精緻さ、内容の充実は木版を凌駕する。小さい画面を刻むビュランの腕の冴えと出来栄えはデューラー本人も自覚していたようで、手記「ネーデルラント旅日記」(前川誠郎訳・岩波書店刊)にも、旅の途中に地方の有力者に贈ったことを記している。
detail